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ラグビーマガジン2月号「メディカルズファイル」に掲載された記事の全文を掲載します。
![]() 無断転載は固くお断りします。転載の際には一言メールしていただくか、引用元としてリンク(HPアドレス)を明示するか、トラックバックするといった最低限のマナーをお願いします。事後メールでも構いません。 ------------------------------------------------------------------- モメンタムをつかみ取れ 雪下 岳彦 ラグビーに限った事ではないですが、実力が拮抗したチームの試合を見ていると、試合には流れがあるなあとつくづく感じることがあるのではないかと思います。中盤まではまさに一進一退の攻防を繰り広げていたのに、一つのプレーを機にあっという間に片方のチームがリードを広げたりする試合を皆さんも目にした事があるでしょう。あるいは、序盤で大きく差がついていたのにもかかわらず、じわじわと巻き返して最後には逆転を飾るような試合も見た事があると思います。試合とはまさに生き物のようです。 実力が近いチーム同士の試合においては、試合の流れのような何かが両チームの間で揺れ動いていて、何かをきっかけにどちらかに大きく傾く事が多いように思います。プレーをしていても、試合を見ていてもこの流れは感じた事があると思います。そして、このように試合の流れが大きく傾いた時、トライや得点といった試合を左右する出来事が起こってくる事が多いのです。昨シーズンの日本選手権決勝、東芝ブレイブルーパスとNECグリーンロケッツの試合は息詰まるディフェンスの攻防で6-6の同点で両チーム優勝となった試合はまだ記憶に新しいと思いますが、この試合では結局どちらのチームも決定的な勝利の流れをつかみ取る事ができませんでした。もし、どちらかのチームがこの流れをうまく自分達に引き寄せる事が出来れば、試合の展開や結果も変わってくると思います。 アメリカンフットボールで特に言われるのですが、試合中のこういう流れや勢いの事を「モメンタム」と呼んでいます。アメリカのNFL(プロのアメリカンフットボールリーグ)中継を見ていても、よくこの「モメンタム」という言葉が使われています。実力が拮抗したチーム同士の対戦において、モメンタムは試合結果を大きく左右する要因の一つと言えます。ですから、試合の中でモメンタムをつかみ取る事は試合に勝利するためにとても大切なのです。 アメフトではターンオーバーの直後はビッグプレーを狙うのが定石となっています。攻守が瞬時に入れ替わるラグビーと違い、アメフトでは攻撃できるのは攻撃権を持つ一方のチームのみで、その間相手チームは守備しかできません。ですから、アメフトにおいてはこの攻撃権を手にする事が非常に重要です。ターンオーバーとは守備側がインターセプトなどで相手からボールを奪い取り、攻撃権が移動する事を言います。このターンオーバーはまさに試合の流れを変えるプレーですが、この後の最初の攻撃でロングパスを使って一気にタッチダウンを狙いに行くのが一つのセオリーなのです。つまり、相手がターンオーバーで浮き足立っている間に一気に畳み込んで、試合の流れ、すなわちモメンタムを自分達のチームに引き寄せようというのが大きな狙いなのです。これでタッチダウンが取れれば、自チームの士気は一気に高まる上、相手チームは意気消沈しまいますよね。こうなったら、その後も有利に試合が進められる事は明白です。 このコラムで何度か「心と身体はつながっている」という事を強調してきましたが、試合中の心理状態もパフォーマンスに大きく影響してきます。ラグビーやアメフトのようにコンタクトを伴うチームスポーツでは特にチームの士気や雰囲気が選手一人一人のプレーに大きく影響を及ぼしてきます。先程のアメフトの話で言うならば、ターンオーバーの直後にタッチダウンを取ったチームはまさにイケイケ状態で、選手達はこの後も思いきりの良いプレーができそうですが、逆にタッチダウンを取られたチームは落ち込んだ状態になり、選手のパフォーマンスにも良くない影響を及ぼしてしまいます。このような心理状態の差が試合の流れをも左右するのだと思います。 ラグビーにおいて、モメンタムをつかみ取るプレーは大きく3つがあると思います。それは「キックオフ」、「タックル」、そして「スクラム」です。この3つは私がラグビーをやっていた時、コーチをしてくださっていた先生がいつも強調されていました。その先生がおっしゃっていた通り、ラグビーにおいて流れを変える事ができる局面はまさにこの3つだと思います。 まず、キックオフが行われるのは試合の前後半開始時、そして得点を取られた後です。つまり、試合の流れがまさに動き始めようとしている局面で行われるのがキックオフです。特に得点プレー後のキックオフは大事な場面です。なぜならば、相手は得点をして、気勢が上がっている所です。一方、自分達は失点により士気が下がりかけている状態だからです。このキックオフでボールを確保する、もしくは確保できないまでも相手にプレッシャーをしっかりとかける事が出来れば、相手に傾きかけた流れをイーブンにする事が出来るでしょう。しかし、ここでキックをイージーミスしたり、相手に易々とボールをコントロールされたりしまっては、相手に傾きかけたモメンタムが一気に相手の方に行ってしまいます。 先日、日本代表のアジア予選壮行試合として行われたオーストラリア首相XV戦をテレビで見ていましたが、前半開始早々にトライを取られた後の日本代表のキックオフでキッカーの蹴ったボールが直接タッチに出てしまいました。この時、頭を抱えるジョン・カーワン監督(当時はアドバイザー)の姿がカメラに捉えられていました。試合開始直後にトライを取られた後のキックオフはその試合のこれからを左右する非常に大事なプレーです。カーワン氏はその事をよくご存じなはずですから、そういう大事な場面でイージーミスをしてしまった事こそ、カーワン氏が頭を抱えた理由であったと思います。 タックルはラグビーにおいて最もスリリングかつ他プレイヤーにまで影響を与えるプレーです。良いタックルが決まると、プレイヤーのみならずその試合を見ている人にまで影響を及ぼすほどの力強いプレーなのです。試合を見ていても、ナイスタックルが決まると会場が沸きますよね。皆さんもよくご存じのように、タックルは非常に勇気のいるプレーです。ですから、タックルを決めた選手はもちろん、チームメイトにもその気迫や勢いは伝わっていくのです。このように、一発のタックルが試合の流れを変えるということがラグビーではよく起こります。ラグビーの歴史を振り返ってみても、強いと言われるチームには必ずこういうタックルを持ち味とするハードタックラーがいたように思います。 スクラムはラグビーの象徴と言っても過言ではないプレーです。フォワード8人ずつ、計16人で押し合うスクラムはチーム同士が直接ぶつかる最大の見せ場と言えます。また、ラグビーの試合において、プレーが始まるのは主にスクラムからなのです。スクラムに参加していないバックスの選手達もスクラムを見ています。ですから、スクラムでプレッシャーをかける事はフォワードのみならずバックスにも勢いをつけます。一方、プレッシャーをかけられた方は実際に後ろに下げられるとともに心理的にもプレッシャーを受けてしまいます。今季からサントリー・サンゴリアスの監督に就任した清宮監督はチーム再興の鍵として、「誰が見ても勝っているとわかるスクラム」をモットーに、スクラム強化に精力的に取り組んできています。その取り組みが、今シーズンの好調ぶりにもよく表れていると思います。 反対に、モメンタムを相手に渡してしまうプレーもあります。それはネガティブな反則とアンフォースド・エラー(イージーミス)です。現代ラグビーにおいて、反則は即相手の得点につながってしまいます。つまり、自陣で反則を犯してしまったら、ペナルティーゴールで3点取られるか、ゴール前で相手にラインアウトの機会を与えてしまうのです。また、試合の流れを壊すような反則を繰り返すと、シンビンを取られてしまったり、最悪退場処分になったりする事もあります。反則には果敢に挑んだ末に犯してしまった反則(ポジティブな反則)と意図的に流れを壊すような反則(ネガティブな反則)の2種類があると思います。ポジティブな反則は積極性が結果的に反則となってしまったプレーなので、モメンタムを相手に渡す事にはならないように思います。しかし、意図的に相手のプレーを妨害するようなネガティブな反則は味方の士気を下げる事に繋がりやすく、結果的に流れは相手の方に傾いてしまいます。 ミスも流れを変えてしまう要因のように思いますが、反則と同様にそのミスが積極的なプレーに基づいたものと消極的なプレーに基づいたものとでは大きく変わると思います。ミスにも大きく分けて2種類があり、フォースド・エラー(Forced Error)とアンフォースド・エラー(Unforced Error)と呼ばれています。フォースド・エラーとは「やむを得ないミス」の事を指しますが、何かにチャレンジしている過程では十分に起こりえるミスと言えます。一方、アンフォースド・エラーはジョン・カーワン次期HCが使い出したことで最近広く知られるようになってきましたが、いわゆる「凡ミス」を意味します。集中力を欠いた時や迷いにより起こるアンフォースド・エラーはその選手だけではなく、チームの他のメンバーにも良くない影響を与えてしまいます。例えば、フォワードが苦労して獲得したボールをバックスがポロポロやっていたら、フォワードの選手達にはストレスがたまっていってしまいます。バックスがこういったアンフォースド・エラーを繰り返していると、フォワードとバックスのコンビネーションに悪影響が出てしまい、チームの士気がうんと下がってしまうのです。また、不思議なものでアンフォースド・エラーはフォースド・エラーに比べて失点につながりやすいように思います。ですから、試合中のアンフォースド・エラーが多くなると、試合のモメンタムも相手の方に傾いてしまうのです。 よく「勝負は時の運」と言ったりしますが、モメンタムをつかみ取る事こそが時の運を引き寄せる事になるのだと思います。そして、試合中もポジティブな姿勢で果敢にチャレンジする事が多くできたチームに試合の流れは傾いていき、最終的に勝利の女神が微笑んでくれるのでしょう。今回お話ししたポイントを特に意識して試合にのぞむ事で、モメンタムはきっとあなたのチームの方に傾いてくれるものと思います。 by yukitakes-garden | 2007-02-05 09:51 | Works
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